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扇谷孝太郎のコラム,コラム,ヨガと体のQ&A 2020.05.26

腹式呼吸を練習していますが、いっこうに呼吸が深くなりません。どうしたらいいでしょうか?

【質問】
腹式呼吸を練習していますが、いっこうに呼吸が深くなりません。どうしたらいいでしょうか?

【回答】
質問者さんは、呼吸が深くできるようになりたいのですね?
それであれば、「腹式呼吸」から一度はなれて、呼吸の仕組みから「深く呼吸をする」というのはどういうことなのか?を考えてみましょう。

 

一口に「腹式呼吸」といっても、教えている先生や書籍によって、やり方にかなり違いがあります。なかには解剖学的にみて明らかに間違った方法を教えているケースもあるので、注意が必要です。

 

まず確認しておきたいことは「お腹に息は入らない」ということです。
よく「お腹まで息を入れる」という言い方をすることがありますが、これは感覚的な表現であって、事実ではありません。
鼻から吸われた空気は気道をとおって肺にながれこみます。肺は左右の肋骨で囲まれたカゴ(胸郭)の中にありますから、お腹に空気は入らないのです。
本来、胸郭と肺は、

 

胸郭がひろがる = 肺がひろがる = 息を吸う

 

胸郭がちぢむ = 肺がちぢむ= 息を吐く

 

という関係になっています。

「深く呼吸をする」というのは、この胸郭と肺のふくらんだり、しぼんだりするうごきの振れ幅が大きいということです。
いわゆる「腹式呼吸」で、息を吸ったときにお腹が前方にふくらむのは、カゴの底にあたる横隔膜が下がって、お腹の中の胃や肝臓、腸などの内臓たちを前方に押し出すからです。
しかし実際には、このようにお腹が前方にふくらんだ状態になると、胸郭の下部から背面にかけてが十分に拡がらないので、かえって息を吸えなくなります。

 

では、どのように意識すれば、呼吸を深くすることができるのでしょうか?

 

それにはまず、胸郭のうごきに関わっている筋肉をリラックスさせることが大切です。息が浅い状態というのは、胸郭を拡げるための筋肉とちぢめるための筋肉がお互いに邪魔をしあって、胸郭のうごきの振れ幅が小さくなっている状態だからです。
息を吸うときは胸郭をちぢめる筋肉はリラックスし、息を吐くときは胸郭を拡げる筋肉がリラックスしなければなりません。
胸郭を拡げる筋肉は、主に横隔膜と外肋間筋です。外肋間筋は左右それぞれ12本ある肋骨と肋骨の間にある筋肉です。重要なことは、この外肋間筋は胸郭の背中側から側面にかけてついていて、前方には存在しないということです。
そして、息を吐くための胸郭をちぢめる筋肉は、主に胸郭の側面から前面にかけて、肋骨と肋骨の間についています。このうごきは主に内肋間筋胸横筋によって行われます。

 

これらの筋肉のつき方を考えると、息を吸うために胸郭を拡げようとして胸の前面に力を入れてしまうと、逆に胸郭をちぢめる筋肉、つまり息を吐くための筋肉が働いてしまうことがわかります。矛盾してますね?
しかし、残念ながら、このような呼吸がクセになっている方は非常に多いのです。
このような呼吸が習慣化することで、吸気/呼気と、それぞれに使われるべき筋肉の組み合わせが矛盾して脳に記憶され、胸郭が固まってしまうのです。
ですから、呼吸を深くするためには、まずはじめに、

 

息を吸う = 胸郭の前側~側面の筋肉(吐くための筋肉:内肋間筋、胸横筋)の力をゆるめる

 

息を吐く = 胸郭の背中側~側面の筋肉(吸うための筋肉:外肋間筋)の力をゆるめる

 

という意識が必要になります。

 

これは仰向けに寝た姿勢だと背中側の肋骨のうごきが制限されて練習しにくいです。腹ばいか、立った姿勢、座った姿勢で練習すると良いでしょう。
また、「力をゆるめる」ためには、吸う息と吐く息の切り替わりの間の時間が大切になります。動いた直後の筋肉の力がしっかりゆるむんでリラックスするためには、うごき終わってからしばらく時間が必要だからです。
この練習によって、胸郭を固めていた筋肉の緊張がほどけてくると、自然に息が深くなるのを感じられるでしょう。ぜひ実践してみてください。

この記事を書いた人

扇谷孝太郎

1995年、演出家竹内敏晴氏の「からだとことばのレッスン」に出会い、身体と表現についての探求を始める。

2001年、ロルファーの資格を取得し公務員から転身。

現在は、恵比寿にてロルフィング(R)を中心に、クラニオセイクラルやソマティック・エクスペリエンス(トラウマセラピー)などの個人セッションを行う。

呼吸や感覚、イメージの活用を独自の視点でまとめた「動くための解剖学」は、ダンサーやヨギなど、高度な柔軟性と身体バランスを必要とする人々から高い支持を得ている。

・米国The Rolf Institute認定アドバンストロルファー
・米国The Rolf Institute認定ロルフムーブメントプラクティショナー
・クラニオセイクラルプラクティショナー
・ソマティック・エクスペリエンス認定プラクティショナー

 

ロルフィングはThe Rolf Institute of Structurl Integrationの登録商標です。

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