扇谷孝太郎のコラム,コラム,ヨガと体のQ&A,講師紹介 2020.09.05
Q.ヨガ初心者です。右の股関節の前側のつまりがとれません。どんなことに注意をしたらよいですか?
Q.ヨガ初心者です。右の股関節の前側のつまりがとれません。どんなことに注意をしたらよいですか?
A.
<骨盤前傾の姿勢になっていませんか?>
股関節の前側がつまった感じがする場合、まず自分の姿勢をチェックしてみましょう。
股関節が屈曲して、脚に対して骨盤が前傾になった姿勢になっていないでしょうか?
骨盤の前傾に加えて、もし腰椎の柔軟性が高ければ、腰が反って下腹が張り出した姿勢になります。自動車の運転や、デスクワークなどで股関節を屈曲させた態勢を長時間続けていると陥りやすい姿勢です。この姿勢はとてもよく見かけます。
反対に腰椎の柔軟性が失われていると、身体全体が前方に傾いたような姿勢になります。前に倒れそうになるのを、肩や首をすくめることでバランスをとることになります。
質問者さんのように、左右のどちらかだけにつまりを感じる場合には、骨盤の左右の傾きのバランスが異なっている可能性が高いです。肩の高さが左右で違っていたり、首が左右どちらかに傾いていたりしないか、チェックしてみましょう。
<その姿勢の原因は腸骨筋>
骨盤前傾の姿勢の原因の多くは、「腸骨筋」という筋肉の短縮です。
腸骨筋は骨盤の左右の骨(寛骨)の内壁から、鼠径部および股関節の前面を経由して、大腿骨の付け根の小転子(内ももの付け根あたり)に伸びています。
同じように腰椎から小転子へ伸びている「大腰筋」と合わせて、「腸腰筋」と呼ばれることもあります。
腸骨筋は股関節を屈曲させる非常に強力な筋肉です。同時に、骨盤の傾きを介して、姿勢全体に非常に大きな影響を与える筋肉の一つでもあります。
歩行などで、骨盤側が固定されているときには、腸骨筋は太ももを持ち上げる動作に使われます。逆に、立位や座位で、太ももの側が固定されているときには、骨盤を前傾させる働きがあります。
骨盤の後面についている大殿筋や、側面の中殿筋、小殿筋などと協力して、骨盤の前傾、後傾、水平化などをコントロールしています。
<腸骨筋を伸ばすには?>
股関節の前側を伸ばす、股関節伸展系のポーズが効果的です。
英雄のポーズや前後開脚(ハヌマーンアーサナ)では、後ろに伸ばした脚の側の股関節の前面がつよく伸ばされます。
アッパードッグやコブラのポーズでは、両方の股関節の前面を同時に伸ばします。
ここで注意しなければならないのは、腸骨筋の短縮があたり前になり、骨盤前傾の姿勢になるまでに固定化されてしまっていると、腸骨筋を伸ばす「感覚」そのものが鈍くなっているということです。
そのため、正しく腸骨筋に刺激を与えられず、ほかの部位を伸ばすことで代償してしまいがちです。
<気をつけるポイント>
1)腹腔内圧(腹圧)を失わない
腸骨筋を伸ばすには、股関節の伸展とともに脚を後方に伸ばします。その際、脚と一緒に骨盤が前傾してしまうと、股関節を十分に伸展できません。骨盤が前傾してしまうと、多くの場合、腰椎を過剰に反らせることになります。
これを防ぐには、腹腔内圧を高めることで、腰椎や骨盤を内側から安定させることが必要です。
腹腔内圧が高まった状態は、お腹に手を当てて、軽く咳をしてみるとわかりやすいでしょう。咳をした瞬間にお腹をふくらませるような力が生じるとともに、腹筋群がつよく収縮してお腹が固くなるのが感じられます。
アサナを行うときには、息を吐くタイミングで、腹腔内圧が抜けてしまいがちです。はじめは、息を吐きながらお腹を前後左右にふくらませるぐらいの気持ちでやってみると良いでしょう。
なお、お腹をふくらませようとするあまり、胸がしぼんでしまったり、姿勢が丸まってしまったりしないように注意してください。
2)肩関節をやわらかく
股関節のうごきは、同じ側の肩関節のうごきと共鳴しています。腸骨筋の短縮によって、股股関節が屈曲しているとき、同時に肩関節も屈曲しています(腕を前方から上方へ挙げていく動きが肩の屈曲)。
したがって、鋤のポーズやテーブルのポーズなど、肩関節をつよく伸展させるポーズ(腕を下方から後方へ伸ばしていく動き)の練習も合わせて行うと効果的です。
なお、肩の柔軟性を高める練習においても、前述の息を吐きながら腹腔内圧を保つことは重要です。
腸骨筋が本来の長さを取り戻し、柔軟性が高まると、骨盤の前傾が改善されます。股関節のつまり感だけではなく、姿勢全体の変化も期待できるでしょう。ぜひ試してみてください。