扇谷孝太郎のコラム,コラム,ヨガと体のQ&A 2019.12.28
身体は柔らかい方なので、ヨガのポーズを取るのに苦労はあまりしません。何を練習したらいいのでしょうか?
ここでは、あなたの人間としての全体性の回復、向上という視点から考えてみましょう。
その場合、2つの方向性で練習を発展させていくことができると思います。
1つめは、生き物としての自然な自分を取り戻すため、運動能力を中心に完成度を高めていくことです。
柔軟性は運動能力を構成する要素の1つでしかありません。
日々の生活をより快適に過ごせるようにしたり、病気や怪我を予防したりするという意味では、敏捷性や瞬発力、持久力など、柔軟性以外の能力を高めていくことも重要です。
自分に欠けている要素を向上させるには、普段と違うタイプのヨガをしてみるのが良いでしょう。
ヨガのタイプによって鍛えやすい要素が異なるからです。
ゆっくりした動きや、一つのポーズで静止している時間を長くとる静的なヨガの練習は、関節を安定させて姿勢を維持するための筋肉に働きかけます。
ゆったりとした呼吸は副交感神経を高めるので、リラックスしやすい身体づくりにも適しています。
一方、早い動きや、いくつものポーズを連続的におこなっていくような動的なヨガの練習は、関節を素早く動かしたり動作の協調性を高めるための筋肉に働きかけます。
強く早い呼吸は交感神経を高めて代謝を上げるので、活力に満ちた身体づくりに適しています。
こうした違いを意識して、自分に不足している要素を高めていくことで、
より完成度の高い動きができるようになるでしょう。
また、このように柔軟性以外の要素を向上させるだけでなく、柔軟性の「質」そのものを見直すこともできるかも知れません。
柔軟性と対になる重要な要素として安定性があります。
柔軟性が関節の動きやすさの能力だとしたら、関節が動いてしまわないように保持する能力が安定性です。
もともと身体が柔らかい方の場合、この安定性が不足しているめにケガや故障をしてしまうケースが多く見られます。
安定性を欠いた柔軟性になっている場合、一見、ポーズの形はできているように見えても、きちんと見ていくと、関節が本来の位置関係を保った状態で動けていません。
そのため、骨格のズレや筋肉のバランスに偏りが生じます。
そうした練習は効果が無いばかりか、長期的には故障の原因になります。
柔軟性とともに、しっかりと安定性も成長してしているかどうか、柔軟性の「質」を見直してみてはいかがでしょうか?
そして、2つめの方向性は、身体と「こころ」のつながりに気づき、目に見えない精神的な部分を高めていくことです。
近年、心理療法の世界では、「身体性」が一つの大きな流れになってきています。
脳科学などの発展により、人間の思考や感情、行動といったものは、自分で思っている以上に、身体の生理的な変化、自律神経やホルモンのバランスに影響を受けていることがわかってきたからです。
身体性を重視した手法では、人間の非言語的な側面、つまり外の環境や自分自身を「どう感じているか」という身体の感覚に注目します。
それによって自律神経やホルモンのバランスに働きかけるのです。
この自分自身の感覚に注意を払うという作業は、ヨガの内観に通じています。
ポーズや瞑想、呼吸などの訓練を通して自分の身体を内観し、それによって「こころ」を制御しようとしてきたヨガの手法は、こうした心理療法の潮流を何千年も前から先取りしてきたとも言えます。
喜怒哀楽に加えて愛や平安、不安や孤独といった感情は、身体の感覚と密接に結びついています。
大地にしっかりとグランディングする感覚や、不安定な姿勢の中にバランスを見つける感覚、空間と調和する感覚など、身体の動きを通して感じる様々な感覚は、その繰り返しの中でダイレクトに脳の機能に働きかけ、あなたの思考や感情、行動のパターンを変えていく力になるでしょう。