YogaBodyコラム COLUMN

コラム,Joe Millerの解剖学コラム 2019.03.28

ヨガの逆転ポーズは血液を逆流させるか?

ヨガ講師の中にこのように言う人が時々いますが答えはノーです。

私たちの体の中にある血液は一方向にしか流れません。

左心室からポンプで送り出され動脈のネットワークを巡り、細胞を包みこむ毛細血管床へと至ります。そこで細胞は酸素と栄養を受け取り、血液は二酸化炭素を受け取ります。

酸素が抜き取られた血液は毛細血管から静脈のネットワークを巡り心臓の右側へと戻ります。

このループは体循環と呼ばれます。
血液は心臓の右心室から肺へと送り込まれ、そこで空気と血液の間で酸素と二酸化炭素が交換されます。

新たに酸素を取り込んだ血液は再び心臓の左側へと戻り肺循環が完了します。

そしてここから再び同じサイクルがスタートします。
これが全ての血液細胞が通る循環の道すじです。心臓の左右の部屋が同時に収縮するため、血液の流れは体循環も肺循環も同時に起こります。

にもかかわらず血液は常に同じ方向に流れます。

もし血液を逆流させたりしたら細胞はすぐに酸素と栄養不足になってしまうので、逆流できない方がむしろ良いということです。(循環系の入門編はこちらのラップをチェックしてみてください rap song

ではなぜヨガ講師はこのようなことを言うのか?

講師たちが言おうとしていることは、血液に対する重力の引く力の影響が私たちが逆さまになることで変わるということです。

私たちが立っている時、重力は足に向かって血液を引ということはヘッドスタンドや肩立ちのようなポーズで逆転した場合、血液は逆の方向である頭に向かって引き下されることになります。

しかし重力が血液を循環させるわけではありません。

もしそうなってしまったら脳は直立状態で血液を得ることができなくなります。血流は心臓のポンプによって作り出される血圧によって起こります。

脳へと途切れなく酸素を供給するために、動脈内の血液には重力の力を超える高さの高圧力がかけられています。

そして血液が毛細血管まで至るとその圧力は劇的に低下するので静脈の血圧は低くなります。静脈は血液を溜めるために膨らむことができるため、実際、私たちの体の中にある血液のほとんどは常に静脈内にあります。
低い静脈圧と重力の影響によって、特に長く立ち続けていると、血液は下脚部の静脈に溜まりやすくなります。

しかし私たちが健康であれば、脚に血液が過剰に溜まり続けることはないでしょう。

そうでなければ循環を維持するために十分な量の血液が心臓に戻らなくなってしまいます。

血液はどのように心臓へと戻るのか?

まず第一に静脈の血管壁には筋肉があります。

血圧が低くなりすぎるとこれらの筋肉が収縮して静脈内の空間を狭くします、それによって静脈圧を上昇させます。
そして脚の筋肉、特にふくらはぎにある筋肉がポンプとして働きます。いうなれば第二の心臓のようなものです。

例えば私たちが歩くとふくらはぎの筋肉が収縮し弛緩します。このようにリズミカルに下脚部の静脈を圧迫、解放することによって、血液をポンプの力で心臓に戻すことを助けます。

静脈には一方向弁があり、これが逆流を防ぎ血液は常に一方向へと流れ続けます。
呼吸もまた心臓に血液を送ることを助けます。これは呼吸ポンプと呼ばれています。

息を吸うと私たちは胸部に陰圧を作り出します。

この陰圧によって腹部にある大きな静脈である下大静脈から胸部へ血液を引き込み、それが心臓へ送られます。
逆さまになることは心臓に血液が戻ることを助けると言えるでしょう。逆転すると重力が脚から血液を引き下ろします。

長い1日のあとで、壁に脚をもたせかけるだけのシンプルな逆転ポーズがとても心地よく感じられるのはこれが一因です。
ヨガ講師としては私たちは、このことは大げさに捉えない方が良いでしょう。

私たちは血液循環を保つために逆さまになる必要はありません。

私たちの体には脚の血液を心臓に送るさまざまな方法が他にも備わっています。

とは言え、逆転がそれを助けることは可能ではあります。

ではヨガ講師として何を言うべきか?
あなたがヨガ講師だとして、生理学的に正しくこのことを説明するために何を言うべきでしょうか?
おそらくこのような感じではないでしょうか。

「皆さんが立っている時、重力によって血液は脚の方へと引き下ろされる傾向にあります。

しかし逆転することによって脚の位置が心臓より高くなり、重力の引く力が通常とは入れ替わります。

これによって心臓に血液が戻ることを助けることができます。」
ヨガの逆転ポーズによって血液が逆流するというようなドラマチックなことを言わなくても、私たちヨガ講師がプラクティスによる効果をよりクリアに、より正確に説明することができたら、いつか私たちのことももう少し真剣に受け止めてもらえるようになるのではないでしょうか。

 

日本語訳 Yo Miyamura

原文リンク Do yoga inversions reverse the flow of blood?

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この記事を書いた人

Joe Miller

Joe Millerは、1980年代よりヨガを始め2000年よりヨガティーチャーとして現在までNYで活躍しています。
2009年、コロンビア大学の応用生理学において修士を取得。
解剖学を探究する中で人体解剖に携わったり、
フェルデンクライスのプラクティショナーの認定を受けるなど常に学び続けています。
2000年より人気ヨガティーチャーCyndi Leeが主宰したNYの伝説的なヨガスタジオOMヨガセンターで12年間指導し、指導者養成コースの解剖学主任として10年以上に渡り多くのヨガティーチャーを育てました。
現在はNow Yoga NYにてヨガクラスを指導し、ヨガメディアでの執筆の他、各国で解剖学講座を行っています。
豊富な経験と温和で落ち着いた人柄とオープンでフラットな指導が人気です。

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