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NEW コラム 2023.05.09

ヨガの練習でどのくらいカロリーを燃焼できるのか? 

ヨガの練習でどのくらいカロリーを燃焼できるのか?
恐らく皆さんが思うほどではありません。
でもそれは大切でしょうか?
たぶん皆さんが思うほどではありません。

「ヨガの練習でどれぐらいのカロリーを燃焼できますか?」と生徒たちにたびたび聞かれます。そして本当に 聞きたいことは、次に来る質問なのだろうと私は推測します。「ヨガの練習で体重は落ちますか?」しかし、実 はこの2つはまったく別の問題なのですが、それにはまた後ほど触れることにします。

「カロリー」という言葉があまりにも痩身と結び付けられているので、質問を「ヨガの練習でどのぐらいエネルギー供給を拡大できるか?」に捉え直したほうが良さそうです。実のところカロリーとはエネルギーの単位でし
かありません。
この質問はまた、「ヨガは有酸素(好気性の)エクササイズとして認められるのか?」、より正確には、心肺持久力改善に十分な強度があるのか、という問いにも答えてくれます。研究結果を見てみましょう。

カロリー消費量は直接測ることができます。1780年代のフランス人化学者アントワーヌ・デ・ラヴォアジエ が、氷で覆った容器にモルモットを入れる方法で初めてそれを行いました。氷の溶けた量を測ることで、この小 さな可哀想な子がどのぐらいの熱を作り出したかを計測します。以降、方法が進化したとはいえ、直接熱量測定 法は今も手間がかかります。特にヨガアーサナを練習する人間というような、大きくて複雑なものを計りたい時はなおさらです。

そこで、直接熱量測定法の代わりに研究者たちが使うのが、対象の酸素吸入量と二酸化炭素排気量を測ること
で、エネルギー消費量を測定する方法です。私たちが酸素を取り入れることで、栄養をエネルギーへと代謝させ
るためこの方法がとられますが、これは同時にカロリーを直接測ることにもなります。
部屋のように大きなサイズの、マスクを付けなくても測定できるカロリーメーターもあるのですが、通常、対象
はホースで呼吸代謝測定装置に繋がれたマスクをつけ呼吸します。マスクが邪魔をするせいで練習が変化し、エ
ネルギー消費量に影響する可能性があるため、理論的には先述のルーム・カロリーメーターの方がより正確では
あります。しかしヨガの練習の場合はそれほど当てはまらないようで、どちらの方法を取っても非常に近い結果
になりました。

まずは、ニューヨークのセント・ルークス・ルーズベルト病院で、ルーム・カロリーメーターを使って行われた 研究を見ていくことにします。ハギンスらは、最低1年以上のヨガ経験者20人(女性18人、男性2人)を対象 に調査を行いました。基礎値を得るための30分の休息後、練習生たちは、28分の太陽礼拝、20分のスタンディ ング・ポーズ、8分のロータス・ポーズとシャバーサナを含む、56分のアシュタンガヨガ・ビギナー用ビデオ に従って練習を行いました。そしてシャバーサナの後、時速約3.2km(2mph)、その後に約4.8km(3mph) の、トレッドミルでのウォーキングをそれぞれ10分間ずつ行いました。

安静時のエネルギー消費量の平均は毎分1.2キロカロリー、ヨガのセッション全体では毎分3.2キロカロリーでし た(私たちはよく「カロリー」と言いますが、正確には「キロカロリー」、「kcal.」です)。時速約3.2kmでの ウォーキングでは毎分3.1kcalを消費するので、ヨガの練習とほぼ同じぐらいです。ヨガのセッション中で、太 陽礼拝が最もエネルギーの集中するパートであることは間違いないですが、それでも毎分3.7kcalで、対象者た ちが時速約4.8kmでウォーキングを行った際の平均値である、毎分4.2kcalをかなり下回りました。

ということは?全体で56分の練習でのカロリー消費量は約180カロリーということになり、時速約3.2kmの中程 度のペースのウォーキングと同等ということになります。これはある程度の消費量ではありますが、しかし有酸 素エクササイズとしては特に目を見張る量ではありません。

では、ヨガの練習は心肺持久力の改善に推奨できるでしょうか?(これこそが論文の執筆者が明らかにしたかっ
た第一の問いです)実はそれほどでもありません。

最も広く受け入れられている推奨エクササイズはアメリカン・カレッジ・オブ・スポーツ・メディシン (ACSM)によるものです。現在のACSMの方針書によると(偶然にも著者は私の大学院での教授でした)、1 日最小30分間の中程度の有酸素運動を週に5日、もしくは最小20分のハードなエクササイズを週に3日、もしく はそれらの組み合わせが推奨されています。また、週ごとの推奨合計時間に達していれば、1回の最短時間を10 分間にして、分けて行うことも可能です。

なるほど。ではどうやって中程度のエクササイズとハードなエクササイズを見分けるのでしょうか?

ACSMではカロリー消費量を示すより、推奨エクササイズについてMETs/代謝当量で表します。1METは基本的 に静かに座っている時の代謝率と同等です。もちろん一人一人の代謝率は違いますが、毎時間体重1kgあたり 1kcalとしてMETは一般標準化されています。ということは、もしあなたの体重が50kgもしくは110パウンドだ としたら、標準となる1METは、安静時のエネルギー消費量が毎時間50kcalということを表しています。

ACSMは3METsを超えるもの、もしくは安静時の代謝率の3倍を中程度、6METs以上をハードなエクササイズ と定義しています。

この研究に参加したヨギたちの結果は、練習全体で平均2.5METsとなり、これはACSMの推奨する中程度のエ クササイズのレベルに達していません。しかし、太陽礼拝が全体の平均より活発であるのは指摘すべきポイント です。太陽礼拝は平均2.9METsで、中程度のエクササイズに少し足りません。

もちろん「3METs」という数字は若干恣意的で、2.9METsのエクササイズが無意味なわけでも、3METsに届 いた途端、効果が目に見えてくるというわけでもありません。

しかしこれらの数字が表していることは、エクササイズはある程度のハードさに到達することで、相応の効果が
発揮されるという現実です。体へのストレスがあまりにも少ないと、何も影響が現れません。閾値がどこにある
かは人それぞれです。例えば不健康な人にとっては、どんな活動の増加でもポジティブな変化が促進されるでし
ょうし、すでに健康な人が効果を得るためには、より多くの刺激が必要になります。ですから数字にとらわれ過
ぎないようにします。しかし同時に、これらはほとんどの人にとって便利なガイドラインでもあるわけです。
以上は研究結果の一つです。では他の研究と比較した場合はどうでしょう?

クレイらの研究では、大学のヨガクラスの生徒(女性28人、男性2人)が所定のヨガを30分間ビデオに従って 行い、その後、比較として時速約5.6km(3.5mph)のトレッドミルでのウォーキングを行いました。5分間の ウォーミングアップ、5分間の太陽礼拝、そしてスタンディング、シッティング、床でのポーズをそれぞれ20秒

ずつキープして15分間行い、シャバーサナを含む5分間のクールダウンを、ヨガの練習として行いました。

ヨガの練習全体では生徒の平均値は2.17METs、太陽礼拝では3.74METsでした。対照的にに、トレッドミルで のウォーキングは4.62METsでした(カロリーで表すと、ヨガでは毎分2.23kcal、トレッドミルでは毎分 4.76kcalとなります)。

これらの数字はハギンズらの研究結果にかなり近いといえます。ヨガが活発なウォーキングよりも激しくないと
いうことはここでも明らかです。

ACSMが発行するジャーナル、『Medicine and Science in Sport and Exercise』に掲載された、ラーソン-メ イヤーによる最近の研究レビューも、これらの研究結果を支持しています(先にあげた研究結果もこのレビュー に含まれています)。

レビューでは、プラーナヤーマ、シッティング・ポーズ、太陽礼拝、またヴィンヤサヨガ1クラス全てなど、広 範囲のヨガの練習を取り上げた17の研究結果を分析しています。いくつかの研究では、特定のポーズのエネル ギー消費テストも行なわれました。個々の調査のクオリティーには大きな開きがあり、中には非常にクオリティ

ーが低いものがあることもお伝えしておきます。

結果としてレビューによると、ヨガの練習の平均は3.3METsでした。1つの小さな研究での太陽礼拝のエネルギ ー消費が7.4METsと他の研究結果から飛び抜けているため、数字が引き上がっていますが、この外れ値を除く とヨガの練習の平均は2.9METsとなり、先の2つの研究結果と一致します。

予想通りですが、プラーナヤーマに関するいくつかの調査結果によって、平均1.3~1.5METsと、休息時のエネ ルギー消費量を大きく上回らないことが解りました。それぞれのアーサナについても予想通りで、立位のバラン スと後屈で最もエネルギーを使いますが、しかし全体として太陽礼拝のエネルギー消費量が最も高くなりまし た。

(グラフ)

では練習の速度を上げたら?

静止したポーズより、ダイナミックに動く太陽礼拝の方がよりエネルギーを使うということは、練習のスピード を上げたらより多くのカロリーを燃焼するのではと思っているのではないでしょうか。2つの研究がこの問いに ついて取り上げています。

2つのうち規模の大きなポティアウンパイらの研究では、22人の経験を積んだヨガ練習生が(女性15人、男性5 人)、メトロームのペースに合わせて太陽礼拝Bを8分間行いました。そして1ポーズ3秒のスピードで行なう場 合と、1ポーズ12秒とで比較を行いました。

予想通り、遅いペースよりも、早いペースの太陽礼拝中のエネルギー消費量が大きく上回りました。(毎分 5.42kcal vs. 毎分3.30kcal)

ジョシュアとダンバーによる小規模の研究では、4人の経験を積んだ練習生が(女性2人、男性2人)に1回45秒 という非常に早いテンポで太陽礼拝Bの練習を30分間行い、そのエネルギー消費量を測定しました。女性の平均 が5~7METs、男性はもう少しエネルギーを使い、平均7~8.6METsとなりました。

研究の規模が小さいため、推測のしすぎはよくありませんが、これらの数字は中程度からハードなエクササイズ の範囲にあると言えます。ですから、太陽礼拝を速く行うことでACSMのガイドラインを満たすことができそう です。

しかし全体としては、ヨガは心肺機能を高めるエクササイズとして特に激しいものではないようです。
でもそれは大切でしょうか?
たとえ激しさの程度が低いとしても、ヨガは心肺システムに大きな恩恵をもたらします、そしてそれは直接心肺
持久力をトレーニングするというよりも、私たちの体のストレス反応を調整することから得られるようです。
そして、それはヨガだけをエクササイズとして行っている場合に問題になるのであって、もし皆さんがランナー
やバイカーやスイマーだとしたら、すでに有酸素運動をたくさん行なっています。また、ハードなワークアウト
を時々ルーティンに加える方が賢明だとは思いますが、ただ単にたくさん歩くだけでも、それが活発なウォーキ
ングであれば、心肺機能に対して適度の刺激をある程度得られます。ハードになるほど心肺機能に対して効用が
ある(ある程度までは)、という研究結果が発表されています。
もちろん、ヨガ以外のエクササイズを何もしない場合は心配な面があります。速い太陽礼拝をたくさん行うこと
で練習の激しさを増すことは可能です。しかし、もしこれのみを行うとしたら、反復性ストレスや
力がある限界を超えると成果の割合が下がる)
ンを持たせる方が良い、と私は考えます。

リスクを負うことになります。動きのメニューにバリエーショ

収穫逓減(入

そしてエクササイズの科学における基本的な原則の一つが思い出されます。それは特異性です。エクササイズに は、課せられた要求に対し特異的に適応するという、「SAID(特異性)の原則」が働いています。何かを練習 すれば、私たちの体はそれが上手くできるようになる、ということです。

なぜ

ハードなコンディショニングと同じ効果をヨガに期待するのでしょうか?全てのエクササイズには、それぞ
れに固有の効果があります。もしあなたのゴールが総合的な健康だとしたら、一つのことだけに自身を制限する

理由はありません。

一方で、皆さんが実際に続けられるものこそがベストなエクササイズです。ランニングやHIIT(高強度インター バルトレーニング)で惨めな気持ちになるなら、続けることができません。何か楽しめるものを見つけましょ う。そしてそれがヨガだけだったとしても、それでもほとんどの人たちよりはエクササイズを行っていることに

なります。

ではもし体重を減らしたいのなら?ヨガで十分なカロリーを燃焼できるでしょうか?

まず、減量にはエクササイズよりも食事が重要です。食事を変えることなくエクササイズを行っても、最小の結 果しか得られないことは研究によって明らかです。たとえとてもハードな運動でも、約500g程度の脂肪を落と すためのカロリーの不足を作り出すには、何時間もかかります。ヨガのような強度の低いものの場合、かなりた くさん行う必要があるでしょう。ヨガでのカロリー供給の拡大程度ではおそらく大きな違いは生まれません。

しかし、いずれにしてもヨガが体重コントロールに有効であることを示す研究結果はあります。ヨガはストレス
を管理し、自己調整や自身の体とより意識的でマインドフルな関係を築くことを培い、これら全てが健康的な食
習慣をもたらしてくれます。それは
練習の間にどのぐらいカロリーを燃やしたかに関わることなくです。
実際、カロリーを燃やして体重を落とすことがエクササイズのポイントだという思い込みは、エクササイズの働
きに対する大きな誤解です。どのような種類のエクササイズであってもその効果は、エクササイズによって与え
られるストレスに対しプラスの適応ができるよう私たちの体に促すことにあります。ですからどちらかといえ
ば、私たちはエクササイズをするためにカロリーを燃焼させている、というのがより正確な言い方であり、その
逆ではないのです。
ということで、ポイントは?
・カロリー消費という意味では、ヨガは軽い、もしくは中程度のエクササイズです。
・よりハードにしたい場合は、太陽礼拝やチャレンジの必要なポーズを増やし、スピードを上げることで可能で
す。しかし結局は、他のタイプのエクササイズと組み合わせて行う方がより良いはずです。
・カロリーをどのぐらい燃焼できるかに集中するより、強くて、動けて、リラックスしていると感じられること
や、その他どんなことでもヨガから得るものがあれば、そのために練習をしましょう。
しかし、なぜヨガはとても難しいと感じてしまうのか?

そしてもう一つ。皆さんはおそらく「ヨガがそれほどハードではないとしたら、なぜこんなに難しく”感じる”の だろう?」と思っているのではないでしょうか。間違いなくウォーキングよりはハードに感じますよね?

運動生理学者はRPE、もしくは自覚的運動強度というもので、実践者がそのエクササイズをどのぐらい難しく感 じるかを測ります。ヨガのRPEについての研究は限られていますが、実践者はエネルギー消費量の値から予測さ れるよりも、練習がハードであると評価する傾向にあります。

それだけではなく、ヨガの練習ではエネルギーの使用量から予測されるよりも、高い心拍反応が出るようです。
一般的に心拍はエクサイズの激しさと、エネルギー消費の良い指標とされます。それはそのとおりで、なぜなら
私たちの心臓は、全ての酸素を筋肉へと送りこまなければならないからです。しかしヨガについては、その関係
性がそれほど明確ではないようです。
ヨガにおける、エネルギー消費の認識と現実のミスマッチの裏には、興味深い生理学的メカニズムがあると私は
考えています。しかしこのトピックについての研究はほとんど無く、これは推測に過ぎません。というわけでこ
の推測については、今後のブログへの投稿にとっておきたいと思います。チャンネルはそのままで。

参照:

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Garber CE et al. American College of Sports Medicine position stand. Quantity and quality of exercise for developing and maintaining cardiorespiratory, musculoskeletal, and neuromotor fitness in apparently healthy adults: guidance for prescribing exercise. Med Sci Sports Exerc. 2011 Jul;43(7):1334-59. Ainsworth BE et al. 2011 Compendium of Physical Activities: a second update of codes and MET

values. Med Sci Sports Exerc. 2011 Aug;43(8):1575-81.
ACSM Compendium of Physical Activities
Clay C et al. The Metabolic Cost of Hatha Yoga. J Strength Cond Res. 2005 Aug;19(3):604-10. Larson-Meyer D. A Systematic Review of the Energy Cost and Metabolic Intensity of Yoga. Med Sci Sports Exerc. 2016 Aug;48(8):1558-69
Potiaumpai et al. Differences in energy expenditure during high-speed versus standard-speed yoga: A randomized sequence crossover trial. Complement Ther Med. 2016 Dec;29:169-174.
Joshua S & Dunbar C. Cardiovascular and Metabolic Responses to Vinyasa Yoga and Paced Surya

Namaskar B. J Yoga Phys Ther. 2016. 6:230.

McIver S et al. Overeating is not about the food: women describe their experience of a yoga treatment program for binge eating. Qual Health Res. 2009 Sep;19(9):1234-45.
Neumark-Sztainer D et al. How Is the Practice of Yoga Related to Weight Status? Population-Based Findings From Project EAT-IV. J Phys Act Health. 2017 Dec 1;14(12):905-912.

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