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ブログ,Gregor Maehleのコラム,ヨガ解剖学 2019.01.20

前屈 パスチモッターアナアサナ|Gregor Maehleのポーズ探求コラム


私は個人的にまだ多くの人が前屈の基礎を理解されていないこと思っています。
特に、前方屈曲における仙骨の章動、および能動的リリース(意識的に体を委ねること)の重要性はしばしば無視されがちです。

パスチモッターナアサナをもう一度細かくおさらいしていきましょう:

まず、脚をまっすぐ伸ばしてダンダアサナで座り、息を吐き、足の親指の方向に手を伸ばします。
腰は平行に保ちます。
座位の前屈で背中を曲げるというアクションは、立った姿勢から背中を丸め、脚をまっすぐにしたまま重いものを床から持ち上げる動きと全く同じことです。
椎間板のズレや損傷の危険を避けるためには、重いものを支える時は下腰部分をまっすぐに保つ必要があります。
これは、すべての前屈と、脚を頭の後ろの方に持っていくエカパダシールシャアサナ(Ekapada Shirshasana)の姿勢にもいえることです。カナピダアサナ(Karnapidasana)やプジャピダアサナ(Bujapidasana)のように重力だけが負荷とされる姿勢では、背骨は曲げても安全に保つことができます。

自分の体の硬さがある方で、背中を丸めたりストラップの使用せずにパスチモッタータナアサナ(Pashimottanasana)でつま先に手を届かせるには2つのオプションあります。
一つ目は、膝を曲げてつま先を取ることです。
これにより、骨盤が前方に傾くことが可能になり、これは前屈の第1段階に到達していると言えます。
腸骨稜(股関節の骨の上部前面)を太もものすぐ近くに保ち、そこから脚をゆっくりとまっすぐに伸ばします。
足の裏を前に押し出し、同時に、座骨を足から離すように伸ばしていきます。 恥骨は太ももの間に沈んでいくような形です。
もう一つのオプションは、脛(すね)、足首、またはあなたが届く場所を握ることです。
しっかりとしたグリップで握り、ハムストリングが伸びてくるにつれてゆっくりと前屈を深めていきます。

ハムストリングがとても硬く、長座で床に座っているだけで骨盤が後傾してしまうという生徒もいます。
これは、重力がその生徒に対して反対に働いていることを意味します。
このような場合、折り畳まれたブランケットの上に座って坐骨の位置を持ち上げることをお勧めします。
これは(ブランケットに座ること)、骨盤を立たせるのに役立ち、脊椎を正しいアラインメントに保つことを助けてくれます。
いずれにしても、吸う呼吸で胸を持ち上げるようにし、腕をまっすぐにします。

吸う呼吸で作った胸のリフトを保ちながら、吐く呼吸で股関節から前屈していきます。
頭を膝に向かって倒していくというよりは、胸を足先に向けて前方にリフトさせるような動きを入れていきます。
ウッディーヤーナバンダ(Uddiyana Bandha)は下腰を支える重要な役割を果たしています。 前屈で、腹部で過剰に呼吸をしすぎてしまう傾向がありますが、胸も呼吸のプロセスに参加するように促していきます。
吸気は自分の胸を前に向けていくために使われますが、呼気はポーズを深めることに使います。
このインストラクションをすることで、生徒に体を上下に動かす、「バウンシング」の動きを起こさせてしまう場合は、その生徒がウッディーヤナバンダ(Uddiyana Bandha)を十分に働かせていないと結論付けることができます。
これらの動きは体の深層部から始まることであり、ヨガポーズは体の内側から外側へとっていくということなのです。

膝蓋骨はすべての前屈姿勢で常にリフトさせています。
パダングシュタアサナ(Padangushtasana)で説明されているように、筋肉がストレッチされている時は、その各筋肉の拮抗筋も同時に働いていなければなりません。 このポーズで伸ばされている筋肉群はハムストリングです。
そしてその拮抗筋は大腿四頭筋です。 初心者にとっては、大腿四頭筋をうまく働かせることができないため、膝蓋骨を引き上げることさえもしばしば不可能です。
あたかも大腿四頭筋に新しい神経をつなぐ必要があるかとも感じられるかもしれません。
しかし、この体の動きは、集中力と忍耐力によって可能となるのです。インストラクターは、生徒の大腿四頭筋を「目覚めさせる」ために親指を両方の太ももに優しく押し付けてみても良いかもしれません。

前屈の全ての姿勢では、臀筋を解放して広げることが重要です。
臀筋はストレッチされることへの恐怖反応で解放されるというよりかは収縮されやすくなります。
しかし、臀筋を収縮させると、大臀筋が股関節外転筋の一つであるため、前屈がしにくくなります。
仙腸関節(仙骨/骨盤を繋ぐ関節)の靭帯も硬く緊張していまうことがあります。
臀筋を解放し、それらが広がることを可能にし、腰を伸ばすことに焦点を当てる。
これは、腰方形筋の伸張性収縮です。 伸張性収縮とは、背中をまっすぐに保つために必要な筋肉が活動的であると同時に腰から筋肉が伸ばされ長くなっている状態です。 言い換えれば、筋肉は抵抗に反しながら長く伸びていることです。
腸骨と一番下の肋骨との間にできるだけ多くのスペースを作ることが重要です。
短縮、収縮された状態の腰は、すべての前屈、後屈、および頭の後ろに脚をもっていくポーズの妨げとなります。

パスチモッターナアサナ(Pashimottanasana)をとるときは、肩が耳から離れていきます。
僧帽筋と肩甲骨を挙上させる筋肉を収縮させると、肩が耳の方に押し上げられ肩周りのスペースが潰れ、頸椎へのエネルギーの流れが妨げられられてしまいます。首の筋肉が過度に収縮すると、前屈または後屈をしている時に顔が赤くなることがあり、血流が頭の方に上りすぎている状態を示しています。
手を使ってこの状態に対処するためには、肩甲骨を後ろに引き下げる、(広背筋による)肩甲骨の下制と呼ばれる動きと、肩甲骨を外側に広げる、肩甲骨の外転と呼ばれる動きを組み合わせていきます。

パスチモッターナアサナ(Paschimottanasana)は、反対方向への同時拡大の原則を実証するためのもう1つの素晴らしい姿勢です。
足、胸、そして頭頂は、背骨をまっすぐに伸ばすために前方に伸びています。 肩甲骨、坐骨、大腿骨頭は後方に伸びています。
肘と肩甲骨は外側に広がり、 引き締まった筋肉は体全体を抱きしめるように支え、プラナを体のコアに集めていきます。
コアは解放されかつ、受容的で明るい状態です。 その輝く光が自分の体全体に浸透し、内側から輝いていきます。

The paradox of active release 能動的解放のパラドックス

このコンセプトは、深く調和のとれた形で自分のポーズを習得するために理解しておくことがとても重要です。
能動的な解放は次の原則からその有効性を導き出します:
ポーズに入るために、私たちは特定の行動を実行する筋肉群を使います。
ポーズに一度入れたら、それらの筋肉群を解放(リリース)して拮抗筋を働かせることで、力を調和させてながらよりポーズが深まっていきます。

例えば、後屈のポーズに入るためには、胴体の伸展筋(起立筋、腰方形筋)を働かせます。
しかし、これらの筋肉は背中全体を短くし、椎骨棘突起を締め付け、後屈を制限することもあります。
後屈のポーズに入れたら、胴体の伸展筋の代わりに屈筋(腹筋)を働かせる必要があります。
それらの筋肉をうまく働かせることができれば椎骨の間にスペースを作ることができ、後屈により深く入ることができます。

同じ原則が、アルダバタパドマパスチモッターナアサナ(Ardha Baddha Padma Pashimottanasana)やバタコナアサナ(Baddha Konasana)などの股関節回旋にも適用されます。私たちは大腿骨を横方向に回旋させることで股関節回旋ポーズに入ることができます。
でも、ポーズに入れたらこの大腿骨の回旋を解放させる(回旋の力を弱める)ことで、 ポーズをさらに深めることができます。
パスチモッターナアサナ(Pashimottanasana)をはじめ全ての前屈ポーズでは、股関節屈筋、特に大腰筋と大腿直筋を働かせます。
股関節が約160°に屈曲すると、間にある股関節屈筋群が邪魔をして、それ以上股関節を屈曲させることができなくなります。

目で見てわかりやすく説明するために、以下を試してください:立ち上がり、ハムストリングスとふくらはぎの筋肉を収縮させて膝関節を曲げてください。
きっとあなたは膝関節を完全に曲げることができないでしょう。
なぜなら、その動き(膝を曲げるということ)ををするためにまさに必要なその筋肉が完全に膝を曲げ、閉じていくことを妨げるからです。
次に、手を使って踵をお尻の方に近づけていきます。 それと同時に、足をまっすぐにする力を働かせ、手の力に抵抗するようにします。
このように拮抗筋を働かせつつ脚を伸ばしていく動きは、屈筋を解放させながら屈曲を弱めていくことで、いずれは平らにしてくれるため、膝関節を曲げ、完全に閉じることができます。パスチモッターナアサナの場合、能動的解放の原則はかかとを床に引き下げることによって応用されます。
ハムストリングスが働くことで、大腰筋と大腿直筋が解放されるのです。
それら(大腰筋と大腿直筋)が解放されると、股関節の前面を閉じるように、完全に前屈をすることができます。

この動きは膝蓋骨が解放されることを意味するものではありません。
膝蓋骨を引き上げる大腿四頭筋には4つの頭があり、大腿直筋はそのうちの1つにあたります。
大腿直筋(グループ内の唯一の二関節筋)が解放された場合でも、他の3つの頭部(外側広筋、内側広筋および中間広筋)が引き続き膝蓋骨を引き上げ、脚を伸ばすように働いているのです。

力を抜き、委ねることはパスチモッターナアサナで最も重要なことです。
この姿勢はハムストリングスの力に打ち勝つことではなく、手放していくことが大事です。 ハムストリングスに呼吸を送り、解放して良い感覚にはならないかもしれません。
私たちはハムストリングに抑制された怒り、競争心、自信のなさからくる恐れなど、多くの強力な感情を溜め込んでいます。
すべての抑制された感情は、有毒なものであり、私たちの健康を損なう可能性がありますし、性格にも影響を与えます。
もしハムストリングスに意識的に呼吸を送り込んだ時に強い感情が込み上げてきたら、その感覚を認めてあげ、手放すことが重要です。
ポーズを通して呼吸するには、ストレッチを自分が対応できる強度に保つ必要があります。
ストレッチが強すぎると、私たちは体をこわばらせ、さらに無感覚になります。 思いやりと知性を持ってストレッチをしていくのです。
それができないと、私たちが今まで無意識に作ってきた古い条件付けを手放すことができず、さらに追加で条件付け、苦しみが新しい層となって積み重なっていくかたちになります。

誤解されがちな、もう一つの重要な動きの一つに、仙骨の章動(すなわち前方への湾曲または曲げ)があります。
仙骨の章動が起こらない限り、腰がパスチモッターナアサナで完全に平らになることはまずありません。
仙骨の章動運動を可能にさせると、前屈が鼠蹊部に近いところからはじまり、背骨上部を丸めた(最後の力を前でなくて下の方に送ってしまっている)状態を防ぎつつ、背骨をまっすぐ保つことができるのです。仙骨に直接繋がり、かつ仙骨の章動をおこせる筋肉はありません。
仙骨の章動は、以下の3つの行動を同時に適用することによって起こります。

  1. 太ももの内旋。 太ももを内旋させようとしないと、足が外側に広がってしまい、一番硬いとされるハムストリング内側の筋肉のストレッチから体が逃がれようとしてしまいます。
  2. 上前腸骨棘をお互いの方向に向かい合わせるように傾ける。 この動きをすることで骨盤の上部を閉じる方向へ、または狭く動かしています。
  3. 上記の動きと同時に坐骨を横に広げます。 この動きは骨盤の下側を広げます。

ここで挙げられた3つの動きすべてを組み合わせると、仙骨の章動がおこり、これにより、前屈した時に腰を完全に平らにすることができます。
ただ、前屈の度合いによっては腰椎前弯も誘発します。 この動きは、後屈とパドマアサナ(Padmasana)(蓮華座)にも適用しなければなりません。
パスチモッターナアサナのポーズに仙骨の章動を誘発するように教えつつ正しく入っていけると、そのポーズ自体が後屈とパドマアサナ(Padmasana)の準備姿勢となります。
後屈では背中のアーチを機能的に保ち、仙骨と腰を安全に保つことが不可欠です。
パドマアサナ(Padmasana)での仙骨章動はすぐに(プラナヤマやヨガの瞑想と組み合わされた場合。
詳しくは私が著した2冊の本にそれぞれのやり方を説明しています)恍惚状態を引き起こします。

足の外側を持ったり、足の裏に手を伸ばして指をからませるか、同じく足の裏に手を回し、もう片方の手首を握る形でポーズを繰り返していきます。
必要であれば膝をもっと曲げても大丈夫です。 パスチモッターナアサナのこの3つのバリエーションは、ハムストリングの内側、外側、および中央を伸ばしてくれます。
これは、ハムストリングを構成する、半腱様筋、半膜様筋、そして大腿二頭筋の3つの筋肉と一致します。

このブログ記事は、2006年の文章「アシュタンガヨーガ実践と探求」からの抜粋です。

日本語訳 Rolf  Marika

原文リンク:https://chintamaniyoga.com/asana/forward-bending-pashimottanasana/

 

 

この記事を書いた人

Gregor Maehle

グレゴール・メーレは40年前、ヨガをはじめました。

1980年代半ば、彼はインドに定期的に旅をし、
様々なヨガ行者や指導者、マスター、と共に伝統的なインドのヨガを学びました。
Mysoreで14ヶ月を過ごし、1997年にはAshtanga YogaをK. Pattabhi Joisによって指導者の認定が与えられました。

グレゴールメーレは解剖学の知識に定評があります。
彼は健康医学者の学位を得て解剖学的知識そして、歴史、哲学、比較宗教を学びました。

また、哲学やサンスクリットなどインドの古典の知識も深く、
グレゴールメーレは、1対1で経典の指導を B.N.S. Iyengarを通して8ヶ月学び、
Narayanachar教授とChandrasekhar教授のもとでSanskritを学びました

彼は隠遁者としてインドに数年間住み、サンスクリットとヨガ聖書を学び、ヨガをしていた経験もあります。

1996年にはオーストラリアのパースにて彼の妻、モニカと一緒に、8 Limbsを開設し、現在も活動をしています。

グレゴールメーレの書籍は世界中で評価の高い「教科書」として認知され、世界中で75,000部のコピーがあり、7つの外国語に翻訳されています。
彼は多くの国に招かれ、多数のヨガ雑誌に寄稿したりインタビューを受けたりしています。

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