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コラム,Joe Millerの解剖学コラム,ヨガ解剖学 2019.02.03

筋肉をストレッチした時に何が起こっているのか?(Part 1)|Joe Miller 解剖学コラム

「筋肉をストレッチすると何が起こるのか?」これは頻繁に聞かれる、特に解剖学のトレ ーニング中には何度も繰り返される質問です。
そしてこのメカニズムが非常に誤解されや すいという点でも、連続して取り上げる価値があるテーマだと言えるでしょう。

ストレッチは2つの方法で筋肉に働きかけます。第一には直接的に筋肉や結合組織そのもに影響を与えます。
そして皆さんがこのブログを読んで知っての通り、その影響は短期間 で一時的なものです。

ストレッチは神経系に影響することで間接的に筋肉に影響を与えています。そしてそれが 前回のテーマでした。

ゴムのような弾性のある物質があります。
ゴムは伸び縮みしますが、しかし例えばキャラ メルのようなものは伸びたままで、縮むことはありません。
筋肉や結合組織など、この二 つの特徴をどちらも備える物質を粘弾性があるといいます。
(実際にはキャラメルも粘弾性です。大きく引っ張れば伸びたままになりますが、少しだけであればもとに戻りま す。)

粘性には流動抵抗があります。
科学的でない表現を使えば「ねばねばしている」ということです。
ケチャップや蜂蜜、糖蜜は粘性です。
非常にゆっくりと動くのでそう見えていないだけで、固体にも粘性のものが多くあります。ガラスですらも粘性です。
古いガラス窓 に表れる波模様は、長い年月をかけて重力によって引っ張られ続けることでできあがりま す。

筋肉をゆっくりとストレッチすることで組織の粘性を利用し、徐々に長く伸ばしていくこ とが可能です。
硬さは形の変化に対する抵抗です。筋組織の硬さはストレッチによって短 期的に解消されます。
しかし、キャラメルを早く引っ張るとちぎれてしまうのと同様に、 筋肉も早く伸ばしすぎると怪我や肉離れをおこします。

熱によっても粘性は増します。
冷たい蜂蜜より温めた蜂蜜が早く流れるのと同じように、 温かい筋肉は冷たい筋肉より楽に安全に伸ばすことができます。
必要なのは筋肉内部の熱 であって、部屋の暖かさではありません。筋肉は動くことで熱を生み出します。
ここに筋肉を内側から温めるという、ヴィンヤサを行う素晴らしさのひとつがあります。
もちろん 部屋が寒ければ、筋肉は作り出した熱を早く失ってしまいますが、しかし室温が38°Cも ある必要もありません。

ではストレッチをやめると筋肉には何が起こるののでしょうか?
基本的にその弾性によっ て元の状態に戻ります。
ゴムバンド同様に、ストレッチをする以前の通常の長さに戻りま す。

皆さんはおそらく自身のヨガの練習を通して、すでにそれを知っているのではないかと思 います。
例えば、柔軟性を要求される1時間のヴィンヤサヨガで汗を流し、軽減バージョ ンではないハヌマナーサナ(スプリット)が出来たとします。
しかしそれから1時間後に 行ってみると、その同じポーズに遠く及びません。
一体、何が起こったのでしょうか?ク ラス開始前の筋肉は通常の硬さです。
実用的な目的のためにその硬さをしているのであっ て、そこまでの柔軟性を普段は持っていないということです。
寒い日に道端の小さな凍結 で足を滑らせたからといって、私たちがあっさりとハヌマナーサナをしてしまわないようにです。
もしそうなってしまったら、ハムストリングスは断絶してしまいます。

筋組織に対して行うストレッチの短期的な影響は、実際本当に短いものだと研究が示して います。
ストレッチは急激に筋肉の硬さを軽減しますが、組織は15分で通常の硬さに戻ります。
ストレッチの30分後には、関節の可動域もストレッチ前の範囲へと戻ります。
実は それは良いことなのです。筋肉は効果的に働くために、最適な長さと硬さをを維持する必要があります。
もしキャラメルのように柔らかかったら、私たちの骨を動かすことはでき ないでしょう。伸びっぱなしになった筋肉はぐにゃぐにゃで役に立ちません。

長年アスリートたちは、ワークアウトや試合の前にストレッチを行うよう言われてきました。
しかし最近の研究は、試合直前の静的ストレッチはパフォーマンスを損なうことを示 しています。
ストレッチされた筋肉は弱く、パワーが落ちます。
(ところでこれは、ワー クアウト直前についての話をしています。
15分から30分後には筋肉はまた元の硬さと長 さに戻ります。
そしてもちろん、ワークアウト前に正しくウォーミングアップすることは 必要です。)

ということは、私たちは柔軟性を増すことができないということでしょうか?
もちろんそ うではありません。私たちがある程度の期間ヨガのプラクティスを行えば、始めた頃より柔軟になることは明らかです。
しかしだからといって、それは筋肉や結合組織そのものが 変化することによって、長期の柔軟性がもたらされることを意味しません。

1996年にデンマークで行われた研究成果があります。
3週間、片脚のハムストリングスの ストレッチを行い、その硬さと可動域の変化を調べました。
すると被験者のストレッチし ていた脚の可動域は大きく広がりましたが、ハムストリングスの硬さには全く変化がありませんでした。
一体どういうことでしょうか?
被験者がストレッチの感覚により寛容にな ったことにより、痛みのポイントに届く前までストレッチを行うことができるようになっ たのが基本的な理由です。
これが長期的な柔軟性の変化の第一のメカニズムのようです。

次回は、その長期的な変化の起こる仕組みついて見ていきます。

この記事を書いた人

Joe Miller

Joe Millerは、1980年代よりヨガを始め2000年よりヨガティーチャーとして現在までNYで活躍しています。
2009年、コロンビア大学の応用生理学において修士を取得。
解剖学を探究する中で人体解剖に携わったり、
フェルデンクライスのプラクティショナーの認定を受けるなど常に学び続けています。
2000年より人気ヨガティーチャーCyndi Leeが主宰したNYの伝説的なヨガスタジオOMヨガセンターで12年間指導し、指導者養成コースの解剖学主任として10年以上に渡り多くのヨガティーチャーを育てました。
現在はNow Yoga NYにてヨガクラスを指導し、ヨガメディアでの執筆の他、各国で解剖学講座を行っています。
豊富な経験と温和で落ち着いた人柄とオープンでフラットな指導が人気です。

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