YogaBodyコラム COLUMN

コラム,Joe Millerの解剖学コラム 2019.10.20

けん垂とヨガ: 多くのヨガで見逃されている重要な動き


けん垂とヨガ: 見過ごしていませんか?

ヨガだけを行なっていると、よりバランスのとれた肩の強さと安定性をもたらせてくれる重要な動きをおそらく見過ごしています。

それは上体のプルアップ・エクササイズ、けん垂です。

ヨガは、ダウンドッグやハンドスタンド、アームバランスなど、上体の押す力の発達を助けます ーこれらのポーズも少しは引く力を鍛えますが。

しかし生活において引く動きは、押す動きと同じくらい重要です。

上体の引く力を鍛えるための、一番のエクササイズはけん垂です。
今までけん垂をしたことがなかったとしたら、フルのけん垂にはひるむと思いますが、しかし全身を重力に逆らって持ち上げることを学ぶことは、手で立つこと、ハンドスタンドを学ぶのと同じぐらい私たちに自信を与えてくれます。

けん垂は多くの筋肉を強化します:
• 前腕の前側にある、手首と手の屈筋、いわゆる握力です。
• 肘の屈筋(上腕の前側にある二頭筋と上腕筋)
• 肩の後ろ側にある、後部三角筋•
• 広背筋 = LATS、骨盤の後ろから腕へと続き、腕を下や後ろに引く役目を果たしている。
• 肩甲骨を動かし、安定させている筋肉のいくつか。例えば、菱形筋や僧帽筋下部。

これらの筋肉のいくつかは、押す時に使う筋肉の拮抗筋です。

ということは、これらを働かせることで肩周りをバランスよく強化することに役立ちます。
加えて、握力を強化することは手首を守ることにも繋がりそうです。
前腕にある屈筋は、手で体重を支えるようなチャトランガやアッパードッグのようなポーズの際に、指を床に押しつける働きを担っています。
この動作によって手首への圧力を減らします。

皆さんがヴィンヤサヨガを練習しているのであれば、手首の健康を守るのは大切です。
懸垂はまた肩を健康に保ってくれるでしょう。
研究によると、広背筋を含む肩の内転筋が働くと(懸垂を行う 際)、上腕骨の上部と肩峰 ー上腕の骨の上に軒先の屋根のように突き出ている、肩甲骨の突起ですが、その間 に空間を作ることに役立ちます。
上腕骨が肩峰に押し込まれると、回旋肩板の腱などを含む、間にある組織が挟 まれてしまうことがあり、これが肩の痛みのよくある原因のひとつになっています。

なるほど。
ということは、けん垂を練習に加えることは大切なようです。

でも懸垂ができなかったら?
けん垂は難しいエクササイズです。

一般的に男性の方が上体の筋肉量が多く、ということは女性よりは楽に行いやすいということになります。

しかし、男性でも女性でも、サポート無しでのフルのけん垂を、少しずつ力を付けていくことで学ぶことは可能です。
以下のエクササイズがスタートとして役に立つでしょう。
そしてもし、けん垂を完成できなかったとしても、これらの練習を取り入れることで、よりバランスのとれた上体の強さを作りあげる助けになります。
まずぶら下がっても大丈夫なところを確保します。
ジムのけん垂バーや公園の遊技場などが理想的です。
家の出入り口にけん垂バーを取り付けることも可能ですが、きちんと取り付けられ、皆さんの全体重をしっかりと支えられることを確認してください。(ビデオはバリで撮ったもので、けん垂バーが無かったので丈夫なドアの枠を代わりに使いましたが、バーを使う方がもっと上手くいくはずです。)
もちろんこれらを行なってみて、肩や肘(もしくは体のどこでも)に痛みを感じる場合は行わないでください。

OK、準備はいいですか?

まずは始めるにあたって役立つエクササイズを2つ、ビデオで紹介します。

 

静止ぶら下がり
バー・ハング(静止ぶら下がり)最初のステップは、腕を伸ばしてぶら下がり静止することです。

オーバーハンドグリップ(手のひらを前に向けて)でバーを握ります。
両手の位置は肩幅より少し広く、そしてただバーからぶら下がり、肘は伸ばしておきます。
肩甲骨を下げようとはせず、自ら自然な位置を見つけるようにします。
ここで行うことは以上です。皆さんはただぶら下がるだけです。
シンプルなエクササイズですが、しかし握る力を発達させ、肩や肘周りの筋肉や結合組織の強化に非常に効果的です。

肩甲骨の引き上げ
次へ進む前にまず30秒ぶら下がれるようになりましょう。
時間が少しかかるかもしれませんが、上達への良い 基礎を作ってくれます。
ですから次のステップへはあせらずに。

スキャプラ・プルアップ 肩甲骨のけん垂30秒ぶら下がれる力がついたら、肩甲骨で行うけん垂の準備ができました。
これは背中にある肩甲骨を安定させ る筋肉、および広背筋を強化するのに役立ちます。
また、肩がどのように動いているかへの認識を上げてくれるでしょう。

ぶら下がり、静止した状態から、肩が自然に耳の方へ引き上がるようにします。
肘を曲げずに、肩甲骨を下、骨盤の方へ引き下ろし、再び耳の方へと上げていきます。
ゆっくりとスタートしましょう。力がつくにつれ、だんだんと10回1セットを数回ずつ行えるようになるでしょう。

このエクササイズについて一言: 多くのヨガ練習生たちが、頭の上に腕を伸ばす時には、強く肩を引き下げてお かなければならないという残念な誤解をしています。
これは健康的な肩の生物力学に反しています。
頭の上に腕 を伸ばすためには、肩甲骨の上方への回旋が必要となり、それによって肩甲骨外側にある肩のソケットが天井方向に持ち上がることが可能になります。
これは強化用のエクササイズなので、ウルドヴァ・ハスターサナなどで 頭の上に腕を伸ばすときに、肩を引き下ろさなければならないとお伝えしているわけではありません。

この2つのエクササイズは、いずれ懸垂をマスターするために必要な力の基礎を築きます。
もしここから先には進まなかったとしても、これらのエクササイズでバランスのとれた肩と腕の力をつけていくことで、皆さんのヨガの練習をより安全なものにする助けになります。

継続する

もしけん垂を完成させることに皆さん興味があるようなら、次の投稿では別のビデオを使って、そこに至る過程を順を追ってお伝えします。

それまでは、皆さん、けん垂の力がどのぐらいついたか、私に教えてくださいね!

 

日本語訳 Yo Miyamura
原文はこちら
Joe Miller ヨガに役立つ「筋肉と筋膜」集中コースはこちらから

References:

Graichen H et al. Effect of abducting and adducting muscle activity on glenohumeral translation, scapular kinematics and subacromial space width in vivo. J Biomech. 2005 April; 38(4):755-60

Hinterwimmer S et al. Influence of adducting and abducting muscle forces on the subacromial space width. Med Sci Sports Exerc. 2003 Dec; 35(12): 2055-9

この記事を書いた人

Joe Miller

Joe Millerは、1980年代よりヨガを始め2000年よりヨガティーチャーとして現在までNYで活躍しています。
2009年、コロンビア大学の応用生理学において修士を取得。
解剖学を探究する中で人体解剖に携わったり、
フェルデンクライスのプラクティショナーの認定を受けるなど常に学び続けています。
2000年より人気ヨガティーチャーCyndi Leeが主宰したNYの伝説的なヨガスタジオOMヨガセンターで12年間指導し、指導者養成コースの解剖学主任として10年以上に渡り多くのヨガティーチャーを育てました。
現在はNow Yoga NYにてヨガクラスを指導し、ヨガメディアでの執筆の他、各国で解剖学講座を行っています。
豊富な経験と温和で落ち着いた人柄とオープンでフラットな指導が人気です。

メールで学ぼう!ヨガとカラダ。 メールで学ぼう!ヨガとカラダ。

身体にインタビュー!?
ヨガのポーズで身体は何を考えてる?
骨や筋肉の気持ちがわかる全10回のメール講座

関連するコラム