YogaBodyコラム COLUMN

松本くらのコラム,コラム,ヨガと体のQ&A 2020.10.01

クラニオセイクラルとポリヴェーガル理論②

先月のコラムに引き続き、ポリヴェーガル理論をもう少し深めてみたいと思います。
今年の4月から3回行われた、ポージェス博士とその伴侶スー・カーター博士(オキシトシンの研究で有名)のオンライン講座の中でポージェス博士は、[協働調整]には2つのフェイズがある、と述べました。
[協働調整]―ヒト(正確には哺乳類以上の生物)の自律神経系が[腹側迷走神経系]にいる時に起こす、[他者との安全の伝え合い]でしたね。
この[協働調整]の2つのフェイズをクラニオの施術に絡めて見ていきたいと思います。

フェイズ1.安全・安心の獲得

これが、前回も述べた[協働調整]の最初の段階です。
ヒトの自律神経系は、腹側迷走神経系に留まっている場合、[社会交流反応]を始めます。他者とコミュニケーションを取って、安全を伝え合う、という反応です。
安全を伝えられた他者は、自らも腹側迷走神経系に入り、安全・安心を獲得します。
赤ちゃんが不安を感じて泣いていると、お母さんが笑いながら「大丈夫だよ」とあやす、すると赤ちゃんも安心して笑い出す、といったコミュニケーションですね。
これが[協働調整]です。

具体的には、顔の表情(眼の柔らかさなど)、ジェスチャー、響きがある声、中耳筋の刺激(傾聴する、など)、相互利益となるスタンス、を用いて対面することで、腹側迷走神経系の状態(安心・安全)が他者に伝えられます。
「顔とか声とかが、なんで?」と思われるでしょうが、腹側迷走神経系は、顔と頭の横紋筋や中耳筋によって刺激を受け、三叉神経・顔面神経・舌咽神経・舌下神経・咽頭喉頭神経と協調して働くのです。
見知らぬヒトたちの中で不安を感じた時、近くで頼りになる相棒が楽しそうに笑っていたら、安心しますよね。

クラニオセイクラルで考えると、[ニュートラル]の状態で腹側迷走神経系に留まっている施術者が、上記のような手段を用いてクライアントとカウンセリングし、セッションテーブルに導き、そこに[安全・安心]な状態で横たわってもらうまでのフェイズ、と言えます。

フェイズ2.[怖れなき不動化]の中で、触れ合いを通して、健康・成長・回復をサポートする生理的状態を維持する。

[不動化]は、自律神経系の中の背側迷走神経系の反応で、動けない・動かないという反応です。危機的な状況の中で、自律神経系が[怖れ]を感じ、状況に対応するために、気を失ったり、硬直したり、死んだふりをする、そんな反応でしたね。

が、もし腹側迷走神経系の状態で、この[動けない・動かない]反応が起こるとしたら、どんな状況でしょう? 
赤ちゃんを抱っこして見つめながら授乳しているお母さんと、一心におっぱいを吸いながらお母さんを見つめている赤ちゃん、そんな関係を見てみましょう。

二人は腹側迷走神経系の状態で[安全と安心]を感じながら、かつ[動けない・動かない]状態でじっとしています。腹側迷走神経系にいながら、背側迷走神経系の反応を起こしている、という状態です。
大人だったら、寛いで、何を語るでもなく肩を寄せ合って海を見ている友人同士、恋人同士、といった感じでしょうか。
これが、[怖れなき不動化]です。

[怖れなき不動化]の状態では、安心できる触れ合いの中で、信頼・安全・愛を感じることができます。そしてそれが、健康・成長・回復をサポートする生理的状態を作り出すのです。

が一方、触れ合い=タッチには、以前にも述べたような繊細な局面がありますので、[安全・安心]な状態で、という大前提が必要です。
つまり、フェイズ1の[安全・安心の獲得]があった上で、フェイズ2[怖れなき不動化]が発動する訳ですね。その時初めて、腹側迷走神経系と背側迷走神経系は手を結び、健康・成長・回復をサポートし始めます。

クラニオセイクラルの場合、施術者とクライアントが触れ合うところからが、このフェイズ2に当ります。二人で[怖れなき不動化]の状態に入っていき、そこでの[協働調整]によって、健康・成長・回復をサポートしていくのです。
そのために施術者は、触れ合っている時も[ニュートラル]の状態で[安心・安全]を保ち、それをクライアントと共有し、[協働調整]し続けます。
そこで起きる状態そのものが、二重の[協働調整]に支えられて、自ずとセッションを展開させていきます。

参照:「ポリヴェーガル理論入門」(春秋社)

この記事を書いた人

松本くら

1958年、横浜生まれ。東京大学文学部卒業。伊豆高原在住。

日本、インドで、ヨガを学び、大学卒業後、ボディワーク・呼吸法・断食・瞑想・アロマテラピー・エサレンボディワーク・クラニオセイクラル・機能解剖など、多方面から[健やかなからだ]へのアプローチを学ぶ。

日本のボディワーク界の草分けとして知られ
セッションハウス「リーラハウス」において個々の身体と向き合いながら
プロフェッショナル・ボディワーカーの学びの場、
伊豆高原「リーラスクール」を立ち上げ
全国から集まるボディワーカーやヨガインストラクターの育成をしている。

著書に、
[【休息のレシピ】~タメイキは最高のゼイタク HAPPYな毎日を送るための呼吸法~](BABジャパン)
[プレヨガで「あなたのヨガ」をはじめよう](BABジャパン)
[肩コリ解消六十四通り](ブルーロータスパブリッシング)
監訳書に、[ヨガボディ](ジュディス・ハンソン・ラサター著・chama共訳・ガイアブックス)がある。
エサレンボディワーク認定プラクティショナー/AIAHS認定アロマセラピスト/クラニオセイクラルバランシング認定プラクティショナー。
リーラハウスHP

 

日本での活動について、詳しく知りたい方はこちらをご覧ください。

クラニオセイクラル・バイオダイナミクスの普及活動の促進と国際認定を持つ日本全国のBCST(バイオダイナ ミック クラニオセイクラル セラピスト)のご紹介を目的としたサイトです。

メールで学ぼう!ヨガとカラダ。 メールで学ぼう!ヨガとカラダ。

身体にインタビュー!?
ヨガのポーズで身体は何を考えてる?
骨や筋肉の気持ちがわかる全10回のメール講座

関連するコラム