扇谷孝太郎のコラム,コラム,ヨガと体のQ&A 2020.06.30
Q.ヨガの先生に骨盤が開きすぎて、ゆがんでいると言われました。それって、どういうことでしょうか?
Q. ヨガの先生に骨盤が開きすぎて、ゆがんでいると言われました。それって、どういうことでしょうか?
A.
いきなり「骨盤がゆがんでいる」なんて言われたら、気にになってしまいますよね。
骨盤のバランスについては、「ゆがみ」のほかにも、「開いている/閉じている」、「(前や後ろに)傾いている」、「ねじれている」など、いろいろな言い回しで説明されることがよくあります。でも、これらは一般の人にわかりやすく説明するための、かなり簡略化された表現なんですね。
しかも、解剖学用語として統一された表現ではありません。そのため話し手や流派によって、その意味するところが違っていたり、甚だしいときには、まったく逆のことを言っていたりするので注意が必要です。
混乱しないためには、表現にまどわされず、それが意味している事実そのものを知ることが大切です。
そのためにはまず、骨盤の構造とうごきについて理解しておきましょう。
<骨盤の骨>
骨盤は4つの骨で構成されています。左右一対の寛骨(かんこつ)、中央の仙骨(せんこつ)、仙骨の下端にある尾骨(びこつ)です(さらにくわしく言えば、尾骨は3~6個の骨でできていますが、個人差があります)。
寛骨は腸骨(ちょうこつ)、恥骨(ちこつ)、坐骨(ざこつ)の3つの骨が胎児が成長する過程で癒合して1つになったものです。それぞれの骨の間は軟骨によってつながっていますが、その軟骨も17歳くらいになると完全に骨化すると言われています。
<骨盤の関節>
左右の寛骨は前方で恥骨同士がつながっています。この関節を「恥骨結合」といいます。後方は左右の腸骨の間に仙骨を挟みこむになっています。この関節を「(右/左)仙腸関節」といいます。さらに、尾骨と仙骨の間を「仙尾関節」といいます。
以前は、仙腸関節は強力な靭帯で固定されていて動かない関節だと考えられていましたが、現在では数ミリのうごきが生じることがわかっています。
このように骨盤は1つの大きな骨というわけではなく、3種類の関節によってつながっています。骨盤が「ゆがむ」というのは、それぞれの関節で、骨同士の位置関係が自然な状態からズレているということです。
さらに、骨盤には、左右の大腿骨とつながる「股関節」、腰椎とつながる「腰仙関節」があり、骨盤がゆがむとこれらの関節を介して、脚や背骨のバランスにも影響をあたえることになります。これも骨盤の「ゆがみ」の一部といえます。
<骨盤のうごき>
では、次に基本的な骨盤のうごきについて見てみましょう。
骨盤のうごきを見るときは、寛骨の前方の突起「上前腸骨棘」と後方の突起「上後腸骨棘」を目印にすると便利です。腰に手を当てたときに人差し指がふれるのが上前腸骨棘、親指がふれるのが上後腸骨棘です。
左右の寛骨は仙腸関節を支点にして、蝶々が羽をはばたかせるようにうごきます。このとき前方では左右の上前腸骨棘同士が近づいたり、離れたりします。そして後方では、上後腸骨棘がそれとは逆のうごきをすることになります。
これらのうごきを骨盤が「ひらく/とじる」と表現することが多いようですが、前方から見て上前腸骨棘のうごきに着目するのか、後方から見て上後腸骨棘のうごきに着目するのかで、意味しているうごきが逆になってしまうので注意が必要です。
また、このほかにも、恥骨結合において左右の恥骨同士が離れていくうごきを、骨盤が「ひらく/ゆるむ」、近づくうごきを「とじる/しまる」と表現している場合もあります。
もうひとつ、骨盤の重要なうごきとして、前や後ろへの「傾き」がありますが、これも話しをするときにはどこの関節を基準にして話しているのかを確認しておく必要があります。
仙腸関節において、仙骨に対して寛骨が前方や後方に回旋するようにうごくことを「前傾/後傾」と表現しますが、股関節において骨盤全体が大腿骨に対して前後に傾くこと(言い換えれば、股関節の屈曲/伸展)も「前傾/後傾」と表現されます。両者はまったく別のことなので、混同しないように注意が必要です。
これらが基本的な骨盤のうごきです。このほかにも呼吸や運動中の骨盤のうごきなどがあります。
それらを知ることは、コンディショニングや効果的なプラクティスのためにはとても有用です。この機会にぜひ学びを深めてみてはいかがでしょうか?