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ブログ,コラム,ヨガと体のQ&A,ヨガ解剖学 2018.12.22

ストレッチによって私たちが柔軟になる仕組みとは?|Joe Miller コラム

直感的に、それは私たちの筋肉と何かしら関係があるに違いないと思えます。

きっと何度も繰り返すうちに筋肉が長くなったり、組織がしなやかになるのではないかと。
しかしそれを裏付ける証拠は今のところ存在しません。

ストレッチは筋組織をしなかやにしますが、それは短期間だけで、その変化は長持ちしません。
筋肉はストレッチをしても、しばらくすればいつもの堅さに戻ります。
その箇所を 以前に負傷したことがあったり、固定していたことがない限り、ストレッチによって筋肉が物理的に長くなることはほぼありえません。
静止状態での筋肉の長さは骨への付着点と 付着点の間の距離によって決められています。
それより長くなるということは、その機能 を失っているともいえるわけです。

しかし、時間が経つにつれて私たちの柔軟性が増すことは明らかです。
では、それはどう のように起こるのでしょうか?その答えは私たちの中枢神経系にあります。

 

伸長受容器

私たちの神経系が私たちの筋肉をコントロールしています。
中枢神経系(脳と脊髄)から の入力が無ければ、筋肉はただの肉の塊です。筋肉はそれだけでは何もすることができま せん。

中枢神経系は筋紡錘というセンサーを通して、私たちの筋肉の長さを絶え間なく観察して います。
筋紡錘は筋肉の長さの変化を察知すると脊髄に信号を送ります。その信号によっ て伸長反射という、ストレッチに抵抗する筋肉の収縮が引き起こされます。
これが例えば パシュチモッターナーサナのような前屈の動作に入ろうとする際に感じる抵抗感、ハムス トリンングスに起きる最初の刺激の原因の一つとなっています。

伸長反射は筋肉の長さが突然変化する時にもっとも強力な反応をみせます。
医師が私たち の膝上にある大腿四頭筋の腱を叩く検査を行いますが、それが起こる原理がこの伸長反射 です。
ハンマーで叩くと腱が素早く引き伸ばされ、それが大腿四頭筋の反射的な収縮を引き起こし膝が伸びるのです。

しかしストレッチが保たれた場合、筋紡錘はそれに適応します。
発火の度合いが遅くな り、脊髄への入力が減少し伸長反射がおさまっていきます。
しかしこれもまた短期間の適 応でしかなく、長期にわたる柔軟性を説明することはできません。

それは私たちの脳が長さに関わらず筋肉の様子について情報を与えるために、常に筋紡錘 の感受性を調整しているからです。このシステムは反応が良く動的でなければなりませ ん。
だから私たちが別な姿勢をとった場合や、さらにストレッチを深めた場合、筋紡錘は 再び発火することになります。


(図右側)
(左上から)
筋紡錘の拡大図

γ-s 運動ニューロン II 求心性繊維

Ia 求心性繊維
γ-d 運動ニューロン

(右)
錘外筋繊維
錘内筋繊維

 


伸長受容器のからの入力は脊髄(伸長反射が起こる場所が脊髄)のみに届くわけではあり ません。
それは脳へも到達しています。これは非常に重要なことで、なぜなら上記のとお り、私たちの脳は常に身体の位置について情報を更新する必要があるからです。
こうした 筋紡錘からの情報は、腱や関節にあるセンサー(および目や前庭系からの入力)からの信号と統合され、空間において常に変化しつづける自身の位置について、完成されたイメー ジを作りあげています。

これは私たちの脳にとって必要不可欠な情報です。
私たちはこれ無しでバランスを保つことや、外部からの脅威に反応することはできません。
また私たちの関節の統合性を保ち、 ケガを防ぐためにも重要なものです。
通常の長さ以上に伸ばされた筋肉を脅威にさらされ た状態として、脳がそれを認識する必要があるわけです。

痛みは、身体が脅威を受けているという認識に対する、私たちの脳からの反応です。
行動を変えるよう、脳が私たちに痛みという方法で伝えているのです。
あるべき範囲を超えて 筋肉を強制的に伸ばした場合、私たちは痛みを感じ、ストレッチを控えます。
その動きの 範囲が実際に有害かどうかはともかく、私たちの脳はまずは安全策をとり、考えるのはそ の後、というやり方をとっています。

ストレッチの働きとは、伸ばされる感覚に対し私たちの脳の許容度を上げることであると、最新の研究が示しています。言い換えれば、私たちは徐々にそれに慣れていくという ことです。
私たちの脳はもはやその感覚を脅威や痛みとして捉えなくなり、それによって その動きの範囲を安全だと認識するようになるというわけです。

一方、特定の動きの範囲を安全ではないと脳が認識し続けた場合、どれだけストレッチを 行っても成果がでないということになります。この状態では長期的な柔軟性が増すことがないため、何年ハムストリングスのストレッチを行っても、つま先に手が届かない人がい る理由がこれにあたります。

となると、私たちが柔軟性を増したい時、ストレッチは本当に効果的な方法なのだろうかという疑問が持ち上がってきます。私はそうではないと考えています。

もし柔軟性が脳からもたらされるのだとしたら、可動域を広げるには筋肉を引っ張ることより、脳のプログラムを組み替えることが鍵となります。
事実、私たちがストレッチを痛 みとして認識していたとしたら、それはおそらく生産的ではないでしょう。私たちの脳は 徐々にそれに慣れていきはしますが、しかしスタートの段階で「安全だよ」と脳に保証し た方が、おそらくずっと早く向上するに違いありません。

これが安全で楽な範囲の中で動きのオプションを探求していく、フェルデンクライス・メ ソッドの原理です。
この原理によって、不快な感覚やストレッチ無しで、自分の予想をは るかに超えた動きが可能になることがしばしばあります。

そしてこれは私たちがよく忘れてしまいがちな、ヨガの基本的な原理でもあります。
隣の マットにいる柔らかい誰かに追いつくことに、私たちはとらわれてしまいがちです。
しか し突き詰めれば、ヨガとは自身のマインドについて知ることであり、可能な限りの深いス トレッチで体を捻じ曲げることではありません。

 

プラクティスで行なっていることにはどのような意味があるのか?

心に留めておきたいいくつかのこと:

・ストレッチを行う前に筋肉を動かしウォームアップします。
温められた筋肉はより粘性 が高まり、しなやかになります。
もっと楽にストレッチできるようになり、筋肉の反射的 な収縮を引き起こす可能性が低くなります。そして私たちの脳がその感覚を痛みとして認 識しにくくなります。

・ウォーミングアップ中は特に、痛みの無い範囲で動き、小さく楽な動きにフォーカスし ます。
これはダイナミック・ストレッチ(動的ストレッチ)と呼ばれる方法で、静的なス トレッチと同様に柔軟性を増すことが明らかにされています。 ・柔軟性は脳によってもたらされることを忘れないこと。痛みを感じる箇所まで無理に行 わないようにします。プラクティス中は穏やかでリラックスしたマインドの状態を保つよう心がけます。

この記事を書いた人

Joe Miller

Joe Millerは、1980年代よりヨガを始め2000年よりヨガティーチャーとして現在までNYで活躍しています。
2009年、コロンビア大学の応用生理学において修士を取得。
解剖学を探究する中で人体解剖に携わったり、
フェルデンクライスのプラクティショナーの認定を受けるなど常に学び続けています。
2000年より人気ヨガティーチャーCyndi Leeが主宰したNYの伝説的なヨガスタジオOMヨガセンターで12年間指導し、指導者養成コースの解剖学主任として10年以上に渡り多くのヨガティーチャーを育てました。
現在はNow Yoga NYにてヨガクラスを指導し、ヨガメディアでの執筆の他、各国で解剖学講座を行っています。
豊富な経験と温和で落ち着いた人柄とオープンでフラットな指導が人気です。

 

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